14.3 ストレスと病気

14 ストレス・生活習慣・健康

うつ病と心臓

何世紀にもわたって、詩人や民間伝承では、気分と心臓の間にはつながりがあると主張されてきました (Glassman & Shapiro, 1998)。皆さんも、失望したり落ち込んだりした出来事の後に胸が張り裂けそうになるということには馴染みがあり、歌や映画、文学の中でその概念に出会っていることは間違いないでしょう。

うつ病と心臓病の関係を最初に認識したのはおそらくBenjamin Malzberg (1937)で、彼はメランコリアmelancholia(うつ病の古い呼び方)の施設患者の死亡率が通常の6倍であることを発見しました。1970年代後半の古典的な研究では、デンマークで躁鬱病(現在は双極性障害に分類)と診断された8000人以上を対象に調べたところ、これらの患者の心疾患による死亡率が、一般のデンマーク人と比べて50%近く高いことがわかりました(Weeke, 1979年)。1990年代初頭には、うつ病患者を長期間追跡調査したところ、心臓病と心臓死のリスクが高いことを示す証拠が蓄積され始めました(Glassman, 2007)。700人以上のデンマーク人を対象としたある調査では、うつ病のスコアが最も高い人は、低い人に比べて心臓発作を経験する確率が71%も高いことがわかりました(Barefoot & Schroll, 1996)。 

図14.20は、男女の心臓発作のリスクの漸進的な変化を示しています。

図 14.20 このグラフは、うつ病スコアの四分位ごとの男女の心臓発作の発生率を示したもの。 (adapted from Barefoot & Schroll, 1996).

20年以上にわたる研究の結果、現在ではうつ病と心臓病にはさまざまな関係があることが明らかになっています。心臓病の患者さんは一般の人よりもうつ病が多く、うつ病の人はうつ病でない人よりも最終的に心臓病を発症して死亡率が高くなる可能性が高く(Hare, Toukhsati, Johansson, & Jaarsma, 2013)、うつ病が重いほどそのリスクが高くなる(Glassman, 2007)のです。

次のことを考えてみましょう。

米国心臓協会American Heart Associationは、心血管疾患におけるうつ病の重要性を十分に認識し、数年前にすべての心臓病患者に対する定期的なうつ病スクリーニングを推奨しました(Lichtman et al., 2008)。最近では、心臓病患者の危険因子としてうつ病を含めることを推奨しています(AHA, 2014)。

うつ病が心臓の問題を引き起こす正確なメカニズムは完全には解明されていませんが、幼少期におけるこの関連性を調べた最近の調査から、いくつかのことが明らかになりました。小児期のうつ病に関する進行中の研究では、子どもの頃にうつ病と診断された青年は、この診断を受けなかった青年に比べて、肥満、喫煙、身体的不活発の傾向がありました(Rottenbergら、2014)。この研究の1つの意味は、うつ病を特に人生の早い時期に発症した場合、不健康なライフスタイルを送る可能性が高まり、それによって好ましくない心血管疾患のリスクプロファイルを持つこととなる恐れがあるということです。

とはいえ、うつ病は心臓病のリスクを高める感情のパズルの1ピースに過ぎず、慢性的にいくつかの否定的な感情状態を経験していることが特に重要である、ということを指摘する必要があります。ベトナム戦争帰還兵の縦断的な調査では、うつ病、不安、敵意、そして怒りのそれぞれが独立して心臓病の発症を予測することがわかりました (Boyle, Michalek, & Suarez, 2006)。しかし、これらのネガティブな心理的属性を1つの変数にまとめると、この新しい変数(研究者は心理的危険因子と呼んだ)は、個々の変数のどれよりも強く心臓病を予測しました。したがって、今後の研究者は、単独の心理的危険因子の予測力を調べるよりも、心血管系疾患の発症における複合的かつより一般的な否定的感情および心理的特性の影響を調べることが極めて重要であると思われます。

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