3.4 脳と脊髄

03 生物心理学

2つの半球

大脳皮質cerebral cortexと呼ばれる脳の表面は非常に凸凹しており、図3.15に示すように、脳回gyrus (pl. gyri)と呼ばれるひだやこぶ、および脳溝sulcus (pl. sulci)と呼ばれる溝が特徴的なパターンを示しています。

図3.15 脳の表面には、脳回と脳溝がある。深い溝は脳裂と呼ばれ、例えば、脳を左右の半球に分ける大脳縦裂がある。

これらのひだや溝は、脳を機能ごとに分けるための重要な目印となります。最も目立った溝は大脳縦裂longitudinal fissureと呼ばれる、脳を左半球と右半球の2つの半球hemisphereに分ける深い溝です。

左半球と右半球では、主に言語機能に違いがあり、それぞれの半球に機能の側性化lateralizationがあることが分かっています。左半球は右半身を、右半球は左半身を支配しています。Michael Gazzanigaマイケル・ガザニガらによる機能の側方化に関する数十年にわたる研究によると,因果関係の推論から自己認識に至るまで、さまざまな機能において、ある程度の半球の優位性を示唆するようなパターンが現れる、ということが示されています(Gazzaniga, 2005)。

例えば、左半球は、記憶の関連付け、選択的注意、ポジティブな感情などについて優位であることが示されています。一方,右半球は,音のピッチ知覚,覚醒,ネガティブな感情などについて優位であることが示されています(Ehret, 2006)。しかし、様々な異なる行動においてどちらの半球が優位であるかという研究では、一貫性のない結果が得られていることを指摘しておきたい。したがって、ある行動を一方の半球と他方の半球のどちらかに帰属させるのではなく、2つの半球がどのように相互作用して特定の行動を生み出すのかを考える方がよいといえます(Banich & Heller, 1998)。

2つの半球は、約2億本の軸索からなる脳梁corpus callosumと呼ばれる太い神経線維で結ばれています。この脳梁によって、2つの半球は互いに連絡を取り合い、一方の脳で処理されている情報をもう一方の脳で共有することができます。

通常、私たちは2つの半球が日常的に果たす役割の違いを意識することはありませんが、自身の2つの半球の能力や機能をよく知るようになった人もいます。重度のてんかんでは、発作の拡大を抑えるために、医師が脳梁を切断することがあります(図3.16)。

図3.16 (a、b)脳の左半球と右半球をつなぐのが脳梁である。 (c) 解剖したヒツジの脳を広げ、半球間の脳梁を示す。

これは有効な治療法ですが、患者は結果的に分離脳になります。手術後、分離脳患者は、さまざまな興味深い行動をとります。例えば、分離脳患者は、左視野に表示された絵の名前を言うことができません。なぜなら、左視野の情報は、主に非言語的な右半球でしか得られないからです。しかし、右半球で制御されている左手を使ってその絵を再現することはできます。そして自身が描いた絵を言語能力の高い左半球が見ると、患者はその絵の名前を言うことができます(左半球が左手で描かれたものを解釈できると仮定すれば)。

脳の各部位の機能については、多くの場合脳に損傷を受けた人の行動や能力の変化を調べることで分かってきます。例えば、研究者は脳卒中による行動の変化を研究することで、特定の脳領域の機能を知ることができます。脳卒中は、脳のある部位の血流が途絶えることで、その部位の脳機能が失われます。その被害は小さな範囲にとどまることもありますが、その場合は、結果として生じた行動の変化をその特定の部位に関連付けることができます。脳卒中後に現れる障害の種類は、脳のどこに損傷があったかによって大きく異なります。

例えば、62歳のテオナは、知的で自立した女性です。最近、彼女は右半球の前部に脳卒中を発症しました。その結果、彼女は左足を動かすことが非常に困難になりました(前に習ったように、右半球は左半身を支配しており、脳の主要な運動中枢は頭の前部にある前頭葉にあります)。また、テオナは行動面でも変化がありました。例えば、スーパーの青果売り場で、ブドウやイチゴ、リンゴなどを、お金を払う前に箱から直接食べてしまうことがあります。このような行動は(脳卒中になる前は彼女にとって非常に恥ずかしいことでしたが)、前頭葉内の判断、推論、衝動の制御に関連した領域である前頭前野の損傷と対応しています。

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