学習目標
- 行動に関する疑問を解決するための科学的研究を説明することができる
- 科学的研究がどのように公共政策を導くかを議論する
- 科学的研究が個人の意思決定においていかに重要であるかを理解する
科学的研究は、この複雑な世界をうまく乗り切るための重要なツールです。科学的研究がなければ、私たちは直感や他人の権威、そして盲目的な運だけに頼らざるを得ないでしょう。私たちの多くは、自分たちを取り巻く世界を読み解く能力に自信を持っていますが、主張を裏付ける証拠の必要性を認識していないと、どれほど大きな間違いを犯してしまうかという例は、歴史上たくさんあります。歴史上の様々な時代において、私たちは、「平らな地球の周りを太陽が回っている」、「大陸は動いていない」、「精神疾患は憑依が原因である」などと確信していました（図2.2）。私たちが先入観や迷信を取り払い、自分自身や世界を客観的に理解するためには、体系的な科学研究が必要です。
科学者の目的は、自分を取り巻く世界をよりよく理解することです。心理学者は、行動を理解し、行動の背景にある認知的（精神的）プロセスと生理的（身体的）プロセスを理解することに焦点を当てています。人が他人の行動を理解するために用いる他の方法、例えば直観や個人的な経験とは対照的に、科学的研究の特徴は、主張を裏付ける証拠があることです。科学的知識は経験的なものであり、誰が観察しているかに関わらず、何度でも観察できる客観的で具体的な証拠に基づいています。
行動は観察できますが、心は観察できません。誰かが泣いていれば、その行動を見ることができます。しかし、その行動の理由を特定することは困難です。その人が泣いているのは、悲しいからなのか、苦しいからなのか、それとも嬉しいからなのか。「どうして泣いているの? 」と質問するだけで、その人の行動の理由を知ることができる場合もあります。しかし、本人が質問に正直に答えることを嫌がったり、答えられなかったりする場合もあります。例えば、乳幼児は自分が泣いている理由を説明することができません。このような状況では、心理学者は行動をよりよく理解する方法を見つけるために創造的でなければなりません。この章では、科学的知識がどのように生み出されるか、そしてその知識が私たちの個人的な生活や公共の場での意思決定を行う上でいかに重要であるかを探ります。
研究情報の利用
科学界で受け入れられている理論とそうでない理論を見極めるのは、特に心理学のような幅広い研究分野では難しいことです。これまで以上に、私たちは信じられないほど多くの情報を手にしています。そして、ある研究テーマについてインターネットで検索すると、矛盾した研究がいくつもヒットすることがあります。このようなケースでは、科学界がコンセンサスを得るための過程を目の当たりにすることになりますが、コンセンサスが得られるまでにはかなりの時間を要することになります。例えば、テクノロジーの利用が爆発的に増えましたが、研究者たちはそれが最終的に人間に役立つのか、それとも妨げになるのかを疑問視しています。教育現場でのテクノロジーの使用と導入は、ここ数十年の間に広く行われるようになりました。研究者たちは、テクノロジーの使用に関してさまざまな結論を出しています。この点について示すものとして、外科研修医（外科研修中の大学院生）を対象としたスマートフォンアプリを調査した研究では、このアプリを使用することで、学生のエンゲージメントを高め、テストのスコアを上げることができることがわかりました（Shaw & Tan, 2015）。逆に、別の研究では、学部生を対象としたテクノロジーの使用は、睡眠、コミュニケーション、時間管理のスキルに悪影響を及ぼすことがわかりました（Massimini & Peterson, 2009）。十分な量の研究が行われるまでは、テクノロジーが学生の知識習得、学習スキル、メンタルヘルスに与える影響について、明確なコンセンサスは得られないでしょう。
一方で、私たちはある程度の健全な懐疑心を持って、遭遇する情報に対して批判的に考えるよう努めなければなりません。誰かが何かを主張したとき、私たちはその主張を、主張した人の専門性は何か、その主張が正しいとしたら相手は何が得られるのか、その主張は証拠から見て正当なものか、他の研究者はその主張をどう考えているのかなど、さまざまな観点から検討する必要があります。このことは、広告キャンペーンやインターネット上で、「科学的根拠」に基づいていると主張している情報が、実際には、製品を販売したり、自分の見解に注目してもらおうとする少数の個人の信念や見解であることを考えると、特に重要です。
