2.4 研究と倫理

02 心理学研究

学習目標

  • 人間を対象とした研究がどのように規制されているかを説明する
  • インフォームド・コンセントとデブリーフィングのプロセスを要約する
  • 動物を対象とした研究がどのように規制されているかを説明する

今日、科学者たちは、優れた研究は本質的に倫理的であり、人間の尊厳と安全を基本的に尊重することによって導かれるということに同意しています。しかし、特集でご紹介するように、これは必ずしもそうではありません。現代の研究者は、自らが行う研究が倫理的に健全であることを証明しなければなりません。

ここでは、倫理的配慮が、今日行われる研究の設計と実施にどのように影響するかを紹介します。

人を対象とした研究

人間を対象とした実験には、その実験が有害な結果をもたらさないことを保証するための広範で厳しいガイドラインが適用されます。人を対象とした研究のために連邦政府の支援を受ける研究機関は、施設内審査委員会institutional review board(IRB)を利用しなければなりません。IRBは、研究機関の管理者、科学者、地域住民などで構成される個人の委員会です(図2.20)。その目的は、人間を対象とした研究の提案を審査することにあります。IRBは、上記の原則を念頭に置いてこれらの提案を審査し、一般的に、実験を進めるためにはIRBの承認が必要となります。

図2.20 IRBは定期的に会合を開き、人間が参加する実験提案を審査する。

IRBが承認する実験には、いくつかの要素が求められます。ひとつは、実験に参加する前に、参加者が同意説明文書に署名することです。同意説明文書informed consent formには、実験中に参加者が予想されるリスクや研究がもたらす影響などが書かれています。また、実験への参加は完全に任意であり、いつでも違約金なしに中止できることを参加者に伝えます。さらに、実験で収集されたデータが完全に秘密にされることも保証されています。研究参加者が18歳未満の場合には、両親または法定後見人が同意説明文書に署名することが求められます。

学習へのリンク

この同意書の例を見て、さらに学びましょう。

同意説明文書は、参加者が何をするのかを正確に記述するためにできるだけ正直であるべきですが、参加者が正確な研究課題を知っていることが研究結果に影響を与えないようにするために、時には偽る必要もあります。デセプションdeceptionとは、実験の完全性を維持するために、実験参加者を意図的に欺くことですが、それが有害であると考えられるほど欺くわけではありません。

例えば、ある人に対する評価がその人の服装によってどのような影響を受けるか、に興味がある場合、その知識が参加者の回答に影響を与えないように、実験の説明にこれを用いることがあります。デセプションが行われた場合には、実験の目的、収集したデータの使用方法、デセプションが必要だった理由、研究に関する追加情報の入手方法など、研究終了時に参加者にデブリーフィングdebriefing(十分な説明のこと)を行う必要があります。

倫理とタスキギー梅毒研究 【深掘り】

残念なことに、今日の研究に適用されている倫理的ガイドラインは、過去には必ずしも適用されてはいませんでした。

1932年、米国公衆衛生局が黒人男性の梅毒を研究する目的で行った実験に、アラバマ州タスキギーの貧しい農村の黒人男性小作人が参加するよう募集されました(図2.21)。600人の男性は、無料の医療、食事、埋葬保険と引き換えに、この研究に参加することに同意しました。

半分強の男性が、梅毒の陽性反応を示し、彼らが実験群となりました(研究者は参加者を無作為にグループ分けすることができなかったため、これは疑似実験となります)。そして残りの梅毒のない人たちが対照群となりました。しかし、梅毒の陽性反応が出た人たちは、梅毒に感染していることを知らされませんでした

研究開始時には梅毒の治療法はありませんでしたが、1947年にはペニシリンが梅毒の有効な治療法として認められるようになりました。それにもかかわらず、この研究の参加者にはペニシリンは投与されず、研究を続けても他の施設で治療を受けることは許されませんでした。

40年の間に、多くの参加者は知らず知らずのうちに妻に梅毒をうつし、その妻から生まれた子供にも梅毒をうつし、治療を受けずに亡くなっていきました。この研究は、1972年に全米の報道機関によって実験が発見され、中止されました(Tuskegee University, n.d.)。この実験に対する怒りの声は、1974年の全米研究法や、この章で扱った、人間を対象とした研究の厳しい倫理ガイドラインに直接つながっていきました。

どうしてこの研究が非倫理的なのでしょうか?この研究の結果、参加した男性とその家族はどのような被害を受けてしまったのでしょうか?

図2.21 タスキギー梅毒研究の参加者が注射を受ける様子。

学習へのリンク

タスキギー梅毒研究に関するこのウェブサイト(英語)で、さらに学んでください。

動物を対象とした研究

心理学者の多くは、動物を対象とした研究を行っています。多くの場合、ネズミ(図2.22)や鳥を実験の対象としており、APAによると、心理学における動物実験の90%はこれらの動物を使っています(American Psychological Association, n.d.)。

動物の基本的な処理過程の多くは人間のものと十分に類似しているため、これらの動物は、人間を対象とした場合には倫理的に問題があると考えられる研究の代用として受け入れられるのです。

図2.22 動物実験の対象となるのは、この写真のようなラットが多い。

だからといって、動物研究者が倫理的な問題と無縁というわけではありません。実際、この種の研究では、動物実験の対象者を人道的かつ倫理的に扱うことが重要な要素となります。研究者は、被験者となる動物の痛みや苦痛を最小限に抑えるように実験を計画しなければなりません。

IRBが人間を対象とした研究計画書を審査するのに対し、動物実験計画書はIACUCInstitutional Animal Care and Use Committeeで審査されます。IACUCは、機関の管理者、科学者、獣医師、地域住民などで構成されています。この委員会は、すべての実験計画が実験動物の人道的な扱いを必要とするということを保証することを責務としています。また、研究規定が守られていることを確認するために、すべての動物施設を半年ごとに検査します。どんな動物研究計画も、委員会の承認を得ずに進めることはできません。

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図2.20 credit: International Hydropower Association/Flickr

Openstax,”Psychology 2e 2.4 Ethics”.https://openstax.org/books/psychology-2e/pages/2-4-ethics

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