12.4 同調と服従

12 社会心理学

スタンレー・ミルグラムの実験

同調は、他人が私たちの思考、感情、行動に及ぼす影響の一つの効果です。社会的影響のもう一つの形として、権威への服従があげられます。

服従obedienceとは、権威者の要求に応じて個人の行動が変化することです。人は、従わなかった場合の結果を懸念して、しばしば要求に従います。この現象を示すために、もう一つの古典的な社会心理学の実験を見てみましょう。

イェール大学の社会心理学教授であったStanley Milgramスタンレー・ミルグラムは、ナチスの戦犯であるAdolf Eichmannアドルフ・アイヒマンの裁判に影響を受けました。Eichmannは残虐行為を「命令に従っただけ」と弁明していました。Milgram(1963)は、この弁明の正当性を検証したいと考え、実験を計画し、当初は40人の男性を実験に参加させました。

ボランティアの参加者は、学習能力と記憶力を向上させるための研究だと信じており、一連のテスト項目に対する正しい答えを他の学生(学習者)に教えることになっていました。そして参加者は、異なる強さの電気ショックを学習者に与える装置の使い方を見せられました。参加者は、学習を促進するため、学習者がテスト項目に間違った回答をしたときにショックを与えるように言われました。参加者は、自分が学習者に与える電気ショックは15ボルト刻みで450ボルトまで上がると信じていました。参加者は、学習者が実際はサクラであり、電気ショックを受けないことを知りませんでした。

参加者は、学習者の不正解に対して、素直に繰り返しショックを与えました。サクラの学習者は、助けてくれと叫び、教師役である参加者にやめてくれと懇願し、心臓が痛いと訴えたこともありました(演技)。しかし、研究者が参加者にショックを続けるように促すと、65%の参加者は、学習者が無反応になるまで、最大電圧までショックを与え続けました(図12.20)。人が他人に重大な危害を加える可能性があるほど、権威に従ってしまうのはなぜでしょうか?

A graph shows the voltage of shock given on the x-axis, and the percentage of participants who delivered voltage on the y-axis. All or nearly all participants delivered slight to moderate shock (15–135 volts); with strong to very strong shock (135–255 volts), the participation percentage dropped to about 80%; with intense to extremely intense shock (255–375 volts), the participation percentage dropped to about 65%; the participation percentage remained at about 65% for severe shock (375–435 volts) and XXX (435–450 volts).
図 12.20 ミルグラム実験では、人が権威に従う度合いが意外と高いことがわかった。3人のうち2人(65%)の参加者は、無反応の学習者にショックを与え続けた。

服従の限界を試すために、Milgramの実験のいくつかの派生版が行われました。状況の特徴を変えると、参加者はショックを与え続ける可能性が低くなりました(Milgram, 1965)。例えば、実験の舞台を学外のオフィスビルに移したところ、最高のショックを与える参加者の割合は48%にまで低下しました。また、学習者が教師と同じ部屋にいた場合、最高のショックを与える割合は40%に下がりました。教師と学習者の手が触れているときは、最高のショックを与えた割合は30%に下がりました。研究者が電話で指示を出した場合は、23%に低下しました。これらの派生実験は、ショックを受ける側の人間性が高まると、服従率が低下することを示しています。同様に、実験者の権威が低下すると、服従率も低下します。

この事例は現在でも非常に参考になります。権威者に何かを命じられたら、人はどうするでしょうか。もしその人が、それが正しくない、さらには非倫理的であると信じていたら、どうするでしょうか?Martin&Bull(2008)の研究では、助産師たちが個人的に、赤ちゃんを出産する際のベストプラクティスと期待に関するアンケートに答えました。その後、先輩の助産師や上司が、後輩助産師たちに、彼らが以前に反対だと言っていたことを実行するように依頼しました。すると、ほとんどの助産師は、自分の信念に反して、権威に従順でした。 Burgerは、この研究を部分的に再現しました。彼は、多文化の女性と男性のサンプルを対象に、彼らの服従のレベルがMilgramの研究と一致することを発見しました(Burger,2009)。 Dolińskiらは、ポーランドでBurgerの研究の再現を行い、参加者と学習者の両方の性別をコントロールしたところ、再びMilgramのオリジナルの研究と一致する結果が観察されました(Doliński,2017)。

集団思考

集団生活では、しばしば周囲の人の考えや感情、行動に影響されます。規範的社会的影響であれ、情報的社会的影響であれ、集団は個人に影響を与える力を持っています。集団への同調のもう一つの現象は、集団思考です。集団思考groupthink(集団浅慮)とは、集団の成員が、集団のコンセンサス(一致した意見)と信じているものに合わせて意見を修正することです(Janis, 1972)。集団の状況では、個人よりも集団の方がより極端な意思決定を行うため、個人が集団外では行わないような行動を取ることがよくあります。さらに、集団思考は、反対の思考回路を妨げます。このように、多様な意見を排除することは、集団による誤った決定を助長するのです。

米国政府の集団思考

米国政府には、集団思考の事例がいくつかあります。その一つが、2003年3月に米国が小国連合を率いてイラクに侵攻したときのことです。これは、少数の顧問団とGeorge W. Bushジョージ・W・ブッシュ前大統領が、イラクは大量破壊兵器を数多く保有しており、テロの脅威となると確信していたことによるものです。当時の情報の信憑性に疑問を持っていた人もいたかもしれませんが、最終的には「イラクは大量破壊兵器を保有しており、国家の安全保障にとって重大な脅威である」というコンセンサスに達してしまったのです。その後、イラクが大量破壊兵器を保有していないことが明らかになりましたが、それは侵攻が始まってからのことでした。その結果、6000人の米兵が死亡し、さらに多くの民間人が亡くなりました。ブッシュ政権はどのようにして結論を出したのでしょうか。

イラク戦争に踏み切る重要な役割を果たしたColin Powellコリン・パウエルの後悔を扱った記事をお読みください。

集団思考の証拠が見出だせますか?

集団思考はなぜ起こるのでしょうか?集団思考にはいくつかの原因がありますが、これは防ぐことができます。集団の結束力が高い場合、またはつながりを強く意識している場合、集団の調和を保つことが適切な意思決定よりも重要になることがあります。また、集団のリーダーが指示的で、自分の意見を明らかにしている場合、集団のメンバーがリーダーに反対することを躊躇してしまうことがあります。また、集団が別の視点や新しい視点を聞く機会から孤立している場合、集団思考が起こりやすくなります。

集団思考が起きているかどうかは、どのようにして分かるのでしょうか?

集団思考には、次のような症状があります。

  • 集団が頑強で無敵であると認識している―自分たちは間違っていないと信じている
  • 自分たちの集団が道徳的に正しいと信じている
  • 集団のコンセンサスを崩さないように情報を隠すなど、集団のメンバーが自己検閲を行う。
  • 反対意見のあるメンバーの意見を封じ込める
  • 集団のリーダーを反対意見から遠ざける
  • 集団のメンバーの間で全員が一致しているかのような錯覚を覚える
  • 外集団や異なる視点を持つ他者に対して、固定観念や否定的な態度をとる(Janis, 1972)。

集団思考の原因と症状を踏まえた上で、どのようにしてそれを回避することができるのでしょうか。集団の意思決定を改善するための戦略はいくつかあります。外部の意見を求める、非公開で投票する、集団のメンバー全員が意見を述べるまでリーダーが立場を表明しないようにする、すべての視点について調査を行う、すべての選択肢のコストと利益を比較検討する、緊急時対応策を策定する、などです(Janis, 1972; Mitchell & Eckstein, 2009)。

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