10.4 情動

10 感情と動機づけ

Magda Arnoldマグダ・アーノルドは、認知的評価の意味を探り、評価プロセスがどのようなものか、そしてそれがどのように情動と関係するかの概要を提示した最初の理論家でした(Roseman & Smith, 2001)。評価理論の主要な考え方は、情動を経験する前に思考(認知的評価)を行い、経験した情動はそのときの思考に依存するというものです(Frijda, 1988; Lazarus, 1991)。何かをポジティブに考えれば、その評価がネガティブなものであった場合よりもポジティブな感情を持つようになりますし、その逆も同様です。この理論は、同じ出来事に対して2人の人間が全く異なる感情を持つことができることを説明しています。

例えば、心理学の先生が感情について皆に説明するようあなたを指名したとします。あなたは、注目を浴びる機会だとポジティブに捉え、幸せを感じるかもしれません。しかし、人前で話すのが嫌いな人は、ネガティブな評価をして不快感を覚えるかもしれません。

SchachterシャクターSingerシンガーは、感情の種類によって生理的覚醒は非常によく似ているので、実際に経験する感情には状況の認知的評価が重要であると考えました。実際、状況が適切であれば、覚醒を誤って情動経験に帰属させることも可能かもしれません(Schachter & Singer, 1962)。彼らは、この考えを検証するために、巧妙な実験を行いました。男性参加者は無作為にいくつかのグループに分けられました。一部の被験者には、交感神経系の闘争・逃走反応を模倣した身体的変化を引き起こすエピネフリンの注射を行いましたが、これらの被験者のうち一部の人だけに、注射の副作用としてこうした反応があることを伝えました。そして他のエピネフリンの注射を受けた男性には、「副作用はない」または「足のかゆみや頭痛など、交感神経の反応とは関係のない副作用が起こる」と伝えました。この注射を受けた後、被験者は他の被験者と思われる人と一緒に部屋で待っていました。実際には、その人は研究者の協力者でした。そして協力者は,台本通りに多幸感を示したり,怒りを示したりしました(Schachter & Singer, 1962)。

副作用として生理的覚醒の症状が生じることを説明された被験者に、多幸感や怒り(協力者の行動による)に関連して感情の変化を経験したか尋ねたところ、何も報告されませんでした。しかし、注射による生理的覚醒の副作用を説明されていなかった男性は、協力者の行動によって多幸感あるいは怒りを経験したと報告する傾向がみられました。エピネフリンの注射を受けた全員が同じ生理的覚醒を経験する一方で、覚醒を予期していなかった人だけが、状況を利用して覚醒を情動状態の変化として解釈したのです(Schachter & Singer, 1962)。

強い情動反応は強い生理的覚醒と関連することから、心拍数や呼吸数の増加、発汗などの生理的覚醒の兆候を利用して、誰かが本当のことを言っているかどうかを判断できるのではないかと提案する理論家もいました。誰かに不誠実なことをしていたら、ほとんどの人が生理的覚醒の兆候を示すだろうという仮説です。ポリグラフpolygraph(嘘発見器)検査は、一連の質問に答える人の生理的覚醒を測定します。このテストを実施する訓練を受けた人は、回答者が不誠実な回答をしている可能性がある回答(兆候として覚醒水準の上昇を伴っているもの)を探します。ポリグラフは今でもよく使われていますが、嘘をつくことが生理的覚醒の特定のパターンと関連しているという証拠はないため、その有効性と正確性には大きな疑問があります(Saxe & Ben-Shakhar, 1999)。

私たちが経験する感情とその認知的処理との関係、およびそれらが起こる順序については、依然として研究と議論の対象となっています。Lazarusラザルス (1991) は、私たちの感情は、刺激に対する評価によって決定されるという認知媒介理論cognitive-mediational theoryを提唱しました。この評価は、刺激と情動反応の間を仲介するものであり、多くは即時的で無意識的なものです。シャクター・シンガー説とは対照的に、評価は認知的なラベル付けに先立って行われます。Lazarusの評価概念については、ストレス、健康、ライフスタイルを学ぶ際に詳しく扱います。

しかし、認知的なプロセスを重視した感情の見方もあります。心理学の教授から皆に説明するよう頼まれたというに戻りましょう。人前で話すのが苦手な人でも、意外となんとかできるかもしれません。こうしたとき、意図的に感情をコントロールすることで、話すことができるようになりますが、そうでなくても私たちは常に感情を調整しており、感情の調整の多くは、積極的にそうしようと考えなくても行われています。Maussモースらが研究したのは、情動の非意図的なコントロールを意味する自動的情動制御automatic emotion regulation(AER)です。AERは、あなたが注意を向ける事柄、評価、情動経験をするかどうかの選択、そして情動経験をした後の行動に影響を与えます(Mauss, Bunge, & Gross, 2007; Mauss, Levenson, McCarter, Wilhelm, & Gross, 2005)。AERは、感覚が知識構造を活性化し、機能に影響を与えるという点で、他の自動的な認知過程と同様です。これらの知識構造には、概念、スキーマ、スクリプトなどがあります。

AERの考え方は、人はスクリプトやスキーマのように機能する自動的なプロセスを開発し、そのプロセスは感情を制御するための意図的な思考を必要としないというものです。AERは、自転車に乗るようなものです。いったんプロセスを身につけてしまえば、あとは何も考えずにそれを実行するだけなのです。AERは適応的でも不適応的でもあり、健康に重要な影響を及ぼします(Hopp, Troy, & Mauss, 2011)。適応的なAERは、不適応的なAERに比べて健康状態が良好です。その主な理由は、適応的なAERを持つ人は、不適応なAERを持つ人に比べてストレス要因をうまく経験したり軽減したりするためです(Hopp, Troy, & Mauss, 2011)。あるいは、不適応なAERは、一部の心理障害が継続するのに不可欠な要因であるかもしれません(Hopp, Troy, & Mauss, 2011)。Maussらは、方略によってネガティブな情動を減らすことができ、それによって、心理的健康が高まるはずだと考えました(Mauss, Cook, Cheng, & Gross, 2007; Shallcross, Troy, Boland, & Mauss, 2010; Troy, Shallcross, & Mauss, 2013; Troy, Wilhelm, Shallcross, & Mauss, 2010)。また、モースは、感情の測定方法に問題があることを示唆していますが、一般的に測定されている感情の側面のほとんどは有用であると考えています(Mauss, et al., 2005; Mauss & Robinson, 2009)。しかし、異なるアプローチから情動を考える研究者は、私たちの情動に関する理解全体に疑問を投げかけます。

タイトルとURLをコピーしました