
私たちの多くは、何らかの形で記憶障害に悩まされています。そして、車の鍵をどこに置いたか忘れたり、試験のために知っておくべき内容を忘れたりしないように、記憶力を高めたいと思っています。このセクションでは、記憶力を高めるための方法と、より効果的な勉強のための戦略をご紹介します。
記憶力を高める方法
記憶力を向上させるには、どのような方法があるのでしょうか?短期記憶から長期記憶への移行を確実にするためには、記憶方略を使うことができます。
その一つがリハーサルで、記憶する情報を意識的に繰り返すことです(Craik & Watkins, 1973)。子供の頃、どのように掛け算の表を覚えたかを考えてみてください。「6×6=36」「6×7=42」「6×8=48」というような式を繰り返して唱えて覚えたと思います。こうした事実(知識)を覚えるのにはリハーサルが適しています。
もう1つの方略は、チャンキングと呼ばれるもので、情報を扱いやすいビットやチャンク(情報のまとまり)に整理します(Bodie, Powers, & Fitch-Hauser, 2006)。チャンキングは、日付や電話番号などの情報を覚えようとするときに有効です。例えば、5205550467を覚えようとするのではなく、520-555-0467というように区切って番号を覚えておくのです。ですから、パーティーで面白い人に出会って、その人の電話番号を覚えようと思ったら、自然とチャンク化して、その番号を何度も繰り返すというリハーサル方略をとることになります。
また、精緻化リハーサルを使うことでも記憶力を高めることができます。精緻化リハーサルとは、ある情報を覚えるときに、その情報の意味や、すでに記憶に保存されている知識との関連性を考える手法のことです(Tigner, 1999)。精緻化リハーサルには、情報をすでに記憶されている知識と結びつけることと、情報を繰り返すことの両方が含まれます。例えば、上記の場合では、520はアリゾナ州の市外局番なので、会った人がアリゾナ州出身だということを覚えておけば、最初の520という番号をよりよく覚えておくことができます。情報が保持されれば、それは長期記憶に入ります。
記憶術は、情報を整理して符号化するのに役立ちます(図8.18)。記憶術は、ステップ、ステージ、フェーズ、組織のパーツなどのように、より大きな情報を思い出したいときに特に役立ちます(Bellezza, 1981)。
例えば、ブライアンは、太陽系内の惑星の順番を覚える必要がありますが、正しい順番を覚えるのに苦労しています。友人のケリーは、彼の記憶を助けるための記憶術を提案します。ケリーは、ブライアンに「Mr.VEM J.SUN」という名前を覚えれば、水星Mercury、金星Venus、地球Earth、火星Mars、木星Jupiter、土星Saturn、天王星Uranus、海王星Neptuneというように惑星の正しい順番を簡単に思い出すことができるよとアドバイスしたのです(日本では「すいきんちかもくどってんかい」と覚えることがある)。
このように、人の名前や数式、演算の順番などを覚えるために、記憶術を使うことがあります。
テレビ番組『モダン・ファミリー(原題:Modern Family)』をご覧になったことのある方は、フィル・ダンフィーが名前の覚え方を説明しているところを見たことがあるかもしれません。
この前、カール(Carl)という男に会ったんだが、彼はグレイトフル・デッドのTシャツを着ていたんだ。グレイトフル・デッドのようなバンドは?フィッシュだ。魚はどこに住んでいるか?海だ。海には他に何が住んでいる?サンゴだ。こんにちは、Co-arl(Carl)君。(Wrubel & Spiller, 2010)
記憶術は、鮮明なものや珍しいものほど覚えやすいようです。どんなものでも上手に使うコツは、自分に合った方略を見つけることです。
動画で学習
また、他の記憶力を高めるための方略としては、「筆記開示(エクスプレッシブ・ライティング)」「声に出して読む」などが挙げられます。筆記開示は、短期記憶を高めるのに役立ちます。特に、人生のトラウマになるような経験を書くといいでしょう。Masao Yogo and Shuji Fujihara(2008)は、月に数回、被験者に20分間隔で文章を書いてもらいました。参加者には、トラウマになった経験、将来の最高の自分、または些細な話題について書くように指示しました。研究者たちは、この単純な文章作成タスクが5週間後に短期記憶容量を増加させたことを発見しましたが、それはトラウマ体験について書いた参加者に限られていました。心理学者は、なぜこの課題が有効なのか説明できませんが、有効なのです。
お店で買わなければならないものを覚えておきたいときはどうしましょう?自分に向かって声に出して言うだけです。一連の研究(MacLeod, Gopie, Hourihan, Neary, & Ozubko, 2010)によると、ある単語を声に出して言うと、その単語の識別性が高まるため、その単語の記憶力が向上するそうです。適当な食料品を声に出して言うのは馬鹿げていると思いますか?このテクニックは、声を出さずに口だけ動かしても同様に効果があります。これらのテクニックを使うことで、被験者の単語の記憶力は10%以上向上しました。こうしたテクニックは、あなたの勉強にも役立ちます。
効果的な勉強法
この章で紹介した情報をもとに、勉強のテクニックを磨くための戦略と提案をいくつか紹介します(図8.19)。こうした戦略で重要なのは、自分に最も適した方法を見つけることです。

精緻化リハーサルを行う:Fergus CraikとRobert Lockhart(1972)は、有名な論文の中で、より深く処理された情報が長期記憶に入るということについて述べています。この理論は「処理水準」と呼ばれています。ある情報を覚えておきたいなら、その情報をより深く考え、他の情報や記憶と結びつけて、より意味のあるものにしなければなりません。例えば、海馬が記憶処理に関与していることを覚えようとするなら、記憶力に優れたタツノオトシゴを思い浮かべれば、海馬をよりよく覚えられるかもしれません。
自己参照効果を応用する:精緻化リハーサルを行う際には、暗記しようとしている資料を自分にとって個人的に意味のあるものにすると、より効果的です。つまり、自己参照効果を利用するのです。自分の言葉でノートを書いたり、文章中の定義を自分の言葉で書き直したり、他の授業で習ったことと関連づけたり、自分の生活にどう応用できるかを考えたりしましょう。このようにして、思い出したいときにきちんとアクセスできるような手がかりの網を構築するのです。
分散学習を行う:一度にすべてを詰め込もうとするのではなく、短時間で時間を区切って学習しましょう。記憶の定着には時間がかかります。時間を区切って勉強することで、記憶の定着のための時間を確保することができるのです。また、詰め込み学習をすると、概念間のリンクが活発になり、リンクに引っかかってしまうので、せっかく学んだ残りの情報にアクセスできなくなってしまいます。
リハーサル、リハーサル、リハーサル:時間をかけて、間隔を空けて計画的に学習を行い、教材を復習しましょう。ノートを整理して勉強し、小テストや試験の練習をし、新しい情報を、すでによく知っている他の情報と結びつけましょう。
効率よく勉強する:学生は素晴らしい蛍光ペンを持っていますが、蛍光ペンを使うのはあまり効率的ではありません。なぜなら、すでに学んだことを勉強するのに多くの時間を費やしてしまうからです。蛍光ペンの代わりに、単語カード(インデックスカード)を使いましょう。片面に問題を書き、もう片面に答えを書きます。勉強するときは、カードを正解したものと間違ったものに分けます。間違えたカードを勉強して、どんどん分類していきます。最終的には、すべてのカードが正解の山に入ります。
妨害に注意:妨害される可能性を減らすために、テレビや音楽などの妨害や気が散るものがない静かな時間に勉強しましょう。
体を動かす:運動が体に良いことはもちろん知っていると思いますが、心にも良いことを知っていましたか?研究によると、定期的な有酸素運動(心拍数が上がるもの)は記憶力に良いとされています(van Praag, 2008)。有酸素運動はニューロン新生を促進します。ニューロン新生とは、記憶や学習に関係する脳の領域である海馬で、新しい脳細胞が成長することです。
十分な睡眠をとる:眠っている間も、脳は働いています。睡眠中、脳は情報を整理し、長期記憶に定着させるのです(Abel & Bäuml, 2013)。
ニーモニック(記憶術)を活用する:この章の前半で学んだように、記憶を助ける工夫は情報を覚えたり思い出したりするのに役立つことがよくあります。記憶を助ける工夫には、頭字語(アクロニム)のようなさまざまな種類があります。頭字語とは、覚えておきたい単語の頭文字をとったものです。例えば、五大湖の近くに住んでいても、五大湖の名前をすべて思い出すのは難しいでしょう。では、「HOMES」という言葉を思い浮かべてみてはどうでしょうか。HOMESとは、ヒューロン湖Huron、オンタリオ湖Ontario、ミシガン湖Michigan、エリー湖Erie、スペリオル湖Superiorの5つの五大湖の頭文字をとったものです。
もう1つの記憶を助ける工夫は折句(アクロスティック)と呼ばれるもので、単語の最初の文字をすべて使ってフレーズを作ります。例えば、数学のテストで、演算の順番がなかなか思い出せない場合、次のような文章を思い浮かべるといいでしょう。括弧Parentheses、指数Exponents、掛け算Multiplication、割り算Division、足し算Addition、引き算 Subtraction、の順で、「Please excuse My Dear Aunt Sally」となります。また、ジングルと呼ばれる韻を踏んだ曲がありますが、これには概念に関連したキーワードが含まれており、例えばi before e, except after cなどがあります。
i before e, except after c(iはeの前、cの後じゃなければね) は、英語のつづりについての覚え歌で、friendのような単語ではiがeの前に来るが、receiveのようにcがあるときは例外(eが先、iが後)だということを表しています。
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図8.18 (credit: modification of work by Cory Zanker)
図8.19 (credit: Barry Pousman)
Access free at https://openstax.org/books/psychology-2e/pages/8-4-ways-to-enhance-memory