
4歳半の男の子が,お父さんと一緒に台所のテーブルに座り,お父さんが新しいお話を読み聞かせています。お父さんは読み続けようとページをめくりますが、読み始める前に男の子は 「待って、パパ!」と言い、新しいページの言葉を指して、読みました。「Go, Pig! Go!」 お父さんは止まって息子を見ました。「これが読めるのかい?」 「うん!」 そして、息子はその言葉を指して、もう一度読みました。「Go, Pig! Go!」
このお父さんは、息子が車や店、テレビなどあらゆる場所で目にする文字や言葉、記号について質問をしていたにもかかわらず、積極的に読み方を教えることはしていませんでした。お父さんは、息子が理解していることは他にもあるのではないかと考え、ある実験をしてみることにしました。紙を手にとり、ママ、パパ、犬、鳥、ベッド、トラック、車、木など、いくつかの簡単な単語をリストにして書きました。そして、そのリストを男の子の前に置き、読んでもらいました。「ママ、パパ、犬、鳥、ベッド、トラック、車、木」少年は、鳥とトラックの発音に気をつけながら、ゆっくりと読みました。そして、「僕読んだよね?パパ」 と言いました。「確かに読んだ!とてもいい」。お父さんは息子を温かく抱きしめ、豚の話を読み続けました。その間、お父さんは息子の能力が特別な知能の表れなのか、それとも単に正常な言語発達なのかを考えていました。この例の父親のように、心理学者たちは、知能とは何か、それをどのようにして測ることができるのかを考えてきました。
知能の分類
知能とは一体何なのでしょうか?心理学が誕生して以来、研究者が知能についての概念を定義する方法は何度も変更されてきました。イギリスの心理学者Charles Spearmanは、知能は「g」と呼ばれる1つの一般因子で構成されており、それを測定して個人間で比べることができると考えていました。Spearmanは、さまざまな知的能力の共通点に焦点を当て、それぞれの知的能力の固有の性質については重要視しませんでした。しかし、現代の心理学が発達するずっと前から、アリストテレスなどの古代の哲学者たちは同じような考えを持っていました(Cianciolo & Sternberg, 2004)。
また、心理学者の中には、知能は単一の要素ではなく、異なる能力の集合体であると考える人もいます。1940年代、Raymond Cattellは、一般知能を「結晶性知能」と「流動性知能」の2つの要素に分けて考える知能理論を提唱しました(Cattell, 1963)。結晶性知能は、獲得した知識とそれを取り出す能力として特徴づけられます。あなたが学び、記憶し、情報を思い出すとき、あなたは結晶性知能を使っています。結晶性知能は、コースワークの中で、コースで取り上げられた情報を習得したことを示すためにいつも使われます。流動性知能とは、複雑な関係を見抜き、問題を解決する能力のことです。道路工事が行われているので見知らぬ道に迂回した後、家に帰るまでの道のりを理解するには、流動性知能が必要です。流動性知能は日常生活での複雑で抽象的な課題に取り組むのに役立ち、結晶性知能は具体的で単純な問題を克服するのに役立ちます(Cattell, 1963)。
他の理論家や心理学者は、知能はより実用的な言葉で定義されるべきだと考えています。例えば、どのような行動が出世に役立つのか?どのようなスキルが成功を促進するのか?ちょっと考えてみてください。アメリカの45人の大統領を順番に暗唱できることは、パーティーで良いネタになりますが、それを知ったからといって、あなたはより良い人間になれるのでしょうか?
Robert Sternbergは、知能を実践的知能、創造的知能、分析的知性の3つの部分から構成されていると見なし、知能の鼎立理論と題した別の知能理論を開発しました(Sternberg, 1988)(図7.12)。

Sternbergが提唱した実践的知性は、「世渡り上手」に例えられることがあります。実践的であるということは、自分の経験に基づいた知識を応用して、日常生活の中でうまくいく解決策を見つけるということです。このタイプの知能は、従来のIQの理解とは別のもののようです。実践的知能のスコアが高い人は、創造的知能や分析的知能のスコアが同等である場合もあれば、そうでない場合もあります(Sternberg, 1988)。
分析的知能は、学術的な問題解決や計算と密接に関連しています。Sternbergは、分析的知能は、分析、評価、判断、比較などを行う能力によって示されると述べています。例えば、文学の授業で古典的な小説を読むときには、その本の主な登場人物の動機を比較したり、物語の歴史的背景を分析したりする必要があるのが普通です。解剖学のような理科の授業では、人間の様々な系において、体が様々なミネラルを使用するプロセスを学ばなければなりません。このテーマを理解するためには、分析的知能が必要です。難しい数学の問題を解くときには、問題のさまざまな側面を分析し、部分ごとに解決するために分析的知能を使います。
創造的知能とは、問題や状況に対する解決策を考案したり、想像したりすることです。この分野での創造性には、予想外の問題に対する斬新な解決策を見つけることや、美しい芸術作品やよく練られた短編小説を生み出すことなどが含まれます。例えば、友人たちと森の中でキャンプをしているときに、キャンプ用のコーヒーポットを忘れたことに気付いたとします。皆のためにうまくコーヒーを淹れる方法を考え出した人は、創造的な知能が高いと評価されるでしょう。
多重知能理論は、Erik Eriksonに師事したハーバード大学の心理学者、Howard Gardnerによって提唱されました。Gardnerの理論では、人は少なくとも8つの知能を持っているとしています。
8つの知能とは、言語的知能、論理・数学的知能、音楽的知能、身体・運動的知能、空間的知能、対人的知能、個人内知能、博物学的知能のことです。
認知心理学者の間では、Gardnerの理論は実証的な証拠に乏しいと酷評されています。しかし、教育者はGardnerの理論を研究し、利用し続けており、Gardnerの理論をどのように教室に取り入れるかを議論している大学もあります。Gottfredsonは、Gardnerの理論が使われ続けている理由の一つとして、「……独立した複数の知性があり、誰もが何らかの形で賢くなりうるということを示唆している」からと述べています。「これは、当然のことながら、民主主義社会においては非常に魅力的な考えである」(Gottfredson,2004)。
Gardnerが提唱した対人的知能と個人内知能は、しばしば「情動知能」という一つのタイプにまとめられます。 情動知能は、自分や他人の感情を理解し、共感を示し、社会的関係や合図を理解し、自分の感情を調整して文化的に適切な方法で対応する能力を含んでいます(Parker, Saklofske, & Stough, 2009)。 情動知能 が高い人は、一般的に社会技能が発達しています。『EQ こころの知能指数』(原題は『Emotional Intelligence: Why It Can Matter More than IQ』)の著者であるDaniel Golemanをはじめとする一部の研究者は、情動知能は従来の知能よりも成功の予測因子として優れていると主張しています(Goleman, 1995)。しかし、情動知能については広く議論されています。研究者たちは、 情動知能 の定義や記述の仕方に矛盾があることを指摘したり、経験的に測定したり研究したりするのが難しいテーマについての研究結果に疑問を呈したりしています(Locke, 2005; Mayer, Salovey, & Caruso, 2004)。
これまでで最も包括的な知能理論は、Cattell-Horn-Carroll(CHC)の認知能力理論です。(Schneider & McGrew, 2018)。この理論では、能力は関連しており、一般知能を上位に、広範的能力を中位に、限定的能力を下位に、というように階層的に配置されています。限定的能力は直接測定できる唯一の能力ですが、他の能力の中に統合されています。一般的なレベルには、一般知能があります。次に、広いレベルは、流動的な推論、短期記憶、処理速度などの一般的な能力で構成されています。最後に、階層が続くにつれ、狭いレベルには特定の形態の認知能力が含まれます。例えば、短期記憶は、さらにメモリスパンとワーキングメモリの容量に分けられます。
また、知能は文化によって意味や価値が異なります。もしあなたが小さな島に住んでいて、ほとんどの人が船から魚を釣って食料を得ているなら、魚の釣り方や船の修理の仕方を知っていることは重要でしょう。もし、あなたが優れた釣り人であれば、周囲の人はあなたを知的だと思うでしょう。また、船の修理にも長けていれば、その知性は島中に知れ渡るかもしれません。自分の家族の文化について考えてみてください。ラテン系の家族にとって重要な価値観は何でしょうか?イタリアの家庭ではどうでしょうか?アイルランドの家庭では、おもてなしの心と楽しい話をすることが文化の特徴です。もし、あなたが話術に長けていれば、他のアイルランド文化圏の人々はあなたを知的だと考えるでしょう。
また、集団で協力することに価値を置く文化もあります。このような文化では、集団の重要性が個人の成果の重要性に勝ります。そのような文化を訪れたときに、どれだけその文化の価値観に対応できるかは、「文化的知性」あるいは「文化的コンピテンス」と呼ばれます。
動画で学習
知能に関するさまざまな理論を比較した動画
創造性
創造性とは、新しいアイデア、解決策、可能性を生み出し、創造し、発見する能力です。創造性の高い人の多くは、何かについて深い知識を持ち、何年もかけて研究し、斬新な解決策を検討し、他の専門家の助言や助けを求め、リスクを取ります。創造性というと芸術の世界のイメージが強いですが、実は様々な分野の人が新しいものを発見するために必要な知性の一種です。創造性は、住居の装飾方法から、細胞の働きを理解する新しい方法まで、生活のあらゆる分野に見られます。
創造性は、多くの場合、人の拡散的思考の能力と関連しています。拡散的思考とは、既存の枠にとらわれない思考のことで、これにより、与えられた問題に対して、独自の複数の解決策を導き出すことができます。対照的に、収束的思考は、問題に対して正しい、または確立された答えや解決策を提供する能力を表します。
創造性
イェール大学生化学・生物物理学の元スターリング教授であるTom Steitz博士は、RNA分子の構造と特定の側面、そしてそれらの相互作用が抗生物質の生産や病気の予防にどのように役立つかについて、キャリアをかけて研究してきました。その成果として、2009年にノーベル化学賞を受賞しました。彼は、「自分の科学分野でのキャリアの発展と進歩を振り返ってみると、キャリア形成の初期段階での優れた指導や、研究のあらゆる段階での同僚との絶え間ない対面での会話、討論、議論がいかに極めて重要であるかを思い知らされる」と書いています。「優れた発見、洞察、開発は、何もないところでは起こりません」(Steitz, 2010, para.39)。Steitzのコメントから、創造性は個人の力ではなく、人との関わり合いの中で発揮されるものだということがわかります。友人や同級生との会話の中で、あなたの創造性が刺激された時のことを考えてみてください。その人からどのような影響を受け、創造性を発揮してどのような問題を解決しましたか?
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