4.2 睡眠—なぜ人は眠るのか

04 意識

学習目標

  • 睡眠に関わる脳の領域を説明する
  • 睡眠に関連するホルモンの分泌を理解する
  • 睡眠の機能を説明するためのいくつかの理論を説明できる
  • 夢を見る理由について、3つの説を挙げ、説明することができる
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私たちは、人生の約3分の1の時間を睡眠に費やしています。米国人の平均寿命が73~79歳であることを考えると(Singh & Siahpush, 2006)、私たちは人生のうち約25年間を睡眠に費やすことになります。睡眠をとらない動物(いくつかの魚類や両生類など)もいれば、睡眠時間が短くても明らかな悪影響を及ぼさない動物(キリンなど)もいますし、2週間睡眠をとらないと死んでしまう動物(ラットなど)もいます(Siegel, 2008)。なぜ私たちはこれほどまでに睡眠に時間を割くのでしょうか。睡眠は絶対に必要なものなのでしょうか?ここでは、これらの疑問について考え、なぜ人は眠るのかについてのさまざまな説明について探ります。

睡眠とは何か?

先に述べたように、睡眠は、身体活動が少なくなり、感覚が鈍くなることが特徴です。Siegel (2008)が述べているように、睡眠を定義するときには、睡眠を制御する概日リズムとホメオスタシスの相互作用についても言及する必要があります。睡眠の恒常的な調節は、睡眠遮断後の睡眠リバウンドによって証明されます。

睡眠リバウンドsleep reboundとは、睡眠不足に陥った人が、その後睡眠の機会が訪れたときにより早く眠りにつくことです。睡眠は、脳の活動パターンによって特徴づけられているため、脳波を用いて可視化することができ、また、脳波を用いて睡眠の段階を区別することもできます。

睡眠と覚醒のサイクルは、複数の脳領域が互いに連携して制御していると考えられます。その中には、視床、視床下部、橋などがあります。すでに述べたように、視床下部には体内時計である視交叉上核(SCN)をはじめとする核があり、視床と共同で徐波睡眠を制御しています。また、橋は、レム(REM)睡眠の制御に重要な役割を果たします(National Institutes of Health, n.d.)。

また、睡眠は、メラトニン、卵胞刺激ホルモンfollicle stimulating hormone(FSH)、黄体形成ホルモンluteinizing hormone(LH)、成長ホルモンなど、いくつかの内分泌腺からのホルモンの分泌や調節にも関係しています(National Institutes of Health, n.d.)。睡眠時に松果体からメラトニンが分泌されることは先に述べたとおりです(図4.6)。

図4.6 松果体と下垂体は、睡眠中にさまざまなホルモンを分泌する。

メラトニンは、様々な生体リズムや免疫系の調節に関与していると考えられています(Hardeland et al.,2006)。睡眠中、下垂体は生殖系の調節に重要なFSHとLHの両方を分泌します(Christensen et al., 2012; Sofikitis et al., 2008)。また、成長ホルモンを分泌し、身体の成長や成熟、その他の代謝の過程に関与します(Bartke, Sun, & Longo, 2013)。

なぜ人は眠るのか?

睡眠が私たちの生活の中心的な役割を果たしていることや、睡眠不足に伴うさまざまな弊害を考えると、なぜ人は眠るのかについて、すでに解明されているのではないかと考えるかもしれませんが、残念ながら、解明されるには至っていません。しかし、睡眠の機能を説明するために、いくつかの仮説が提案されています。

睡眠の適応機能

睡眠の仮説としては、進化心理学の視点を取り入れたものが有名です。進化心理学evolutionary psychologyは、自然淘汰の結果、普遍的な行動パターンや認知プロセスがどのように進化してきたかを研究する学問です。認知や行動の変化や適応は、個人が繁殖して自分の遺伝子を子孫に伝えることに成功するかしないかを左右します。

この観点からの仮説としては、日中に消費した資源を回復させるために、睡眠が不可欠であったということが考えられます。資源の乏しい冬に熊が冬眠するように、人間もエネルギー消費を抑えるために夜眠るのではないか。これは直感的な説明ですが、この説明を支持する研究はほとんどありません。むしろ、休息や不活動の期間でエネルギー需要に対処できない理由はないと示唆されており(Frank, 2006; Rial et al., 2007)、エネルギー需要と睡眠時間の間に負の相関関係を見出した研究もあります(Capellini, Barton, McNamara, Preston, & Nunn, 2008)。

睡眠に関するもうひとつの進化論的仮説は、暗闇の中で増加する捕食のリスクに対する適応的な反応として、私たちの睡眠パターンが進化したというものです。そのため、私たちは安全な場所で睡眠をとり、危害を受ける可能性を減らしているのです。これもまた、直感的で魅力的な説明です。おそらく、私たちの祖先は、潜在的な捕食者からの注目を避けるために、長時間眠っていたのでしょう。しかし、比較研究によると、捕食リスクと睡眠の間に存在する関係は非常に複雑で曖昧であることがわかっています。捕食リスクの高い種は、他の種に比べて睡眠時間が短いという研究結果がある一方で(Capellini et al.,2008)、ある種の生物が深い眠りにつく時間と捕食リスクには関係がないとする研究者もいます(Lesku, Roth, Amlaner, & Lima, 2006)。

睡眠には普遍的な適応機能はなく、異なる種がそれぞれの進化の圧力に応じて異なるパターンの睡眠を進化させてきた可能性は十分にあります。ここまでは、睡眠不足に伴う悪影響について述べてきましたが、十分な量の睡眠には多くの利点があることも指摘しておきたいと思います。全米睡眠財団(n.d.)によると、健康的な体重の維持、ストレスレベルの低下、気分の改善、運動能力の向上などのほか、認知や記憶の形成に関連する多くの利点が挙げられています。

睡眠の認知機能

人が眠る理由に関するもう一つの理論は、睡眠が認知機能や記憶形成に重要であるというものです(Rattenborg, Lesku, Martinez-Gonzalez, & Lima, 2007)。実際、睡眠不足になると、認知機能の障害や記憶障害が生じ(Brown, 2012)、注意力の維持、意思決定、長期記憶の想起などの能力が低下することがわかっています。さらに、これらの障害は、睡眠不足の量が増えるほど深刻になります(Alhola & Polo-Kantola, 2007)。その上、新しい課題を学習した後の徐波睡眠は、その課題の結果としてのパフォーマンスを向上させることができ(Huber, Ghilardi, Massimini, & Tononi, 2004)、効果的な記憶形成には不可欠であると考えられています(Stickgold, 2005)。睡眠が認知機能に与える影響を理解しておけば、テストのために徹夜で詰め込むのは効果的ではなく、逆効果になる可能性があることを理解できるはずです。

学習へのリンク

大学生のための睡眠のヒントを紹介した簡単な動画(英語)を見て、さらに詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

最適な睡眠時間を確保することは、その他の認知機能の向上にもつながります。研究によると、向上するものとして創造的思考力(Cai, Mednick, Harrison, Kanady, & Mednick, 2009; Wagner, Gais, Haider, Verleger, & Born, 2004)、言語学習(Fenn, Nusbaum, & Margoliash, 2003; Gómez, Bootzin, & Nadel, 2006)、推論判断(Ellenbogen, Hu, Payne, Titone, & Walker, 2007)などが挙げられます。また、感情的な情報の処理でさえ、睡眠のある側面に影響を受けている可能性があります(Walker, 2009)。

学習へのリンク

睡眠と記憶の関係についての簡単な動画(英語)を見て、さらに理解を深めてください。

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原題の「Why We Sleep」が、日本のビジネス書特有の熱血的なタイトルになっている点以外はおすすめできる1冊。

Openstax,”Psychology 2e 4.2 Sleep and Why We Sleep”.https://openstax.org/books/psychology-2e/pages/4-2-sleep-and-why-we-sleep

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