本書の構成
本書『進化とは何か:ドーキンス博士の特別講義』は、著者リチャード・ドーキンスがイギリスの王立研究所で行った「クリスマス・レクチャー」の全5回分の内容である
- 第1章 宇宙で目を覚ます
- 第2章 デザインされた物と「デザイノイド」
- 第3章 「不可能な山」に登る
- 第4章 紫外線の庭
- 第5章 「目的」の創造
に、「第6章 真実を大事にする」
という編訳者である吉成真由美さんによるインタビューが加えられた全6章で構成されています。
各章の内容
「第1章 宇宙で目を覚ます」では、私たちが今ここに存在していること、それ自体がどれだけ奇跡的で驚異的なことであるかを語ります。
前半では、私たちの周りの生物や、私たち自身の多様さや複雑さに目を向け、進化の世界に読者を誘います。
後半ではたくさんの例を用いながら、地球での何十億年という膨大な時間の中で存在してきたそれぞれの私たちの祖先の存在に思いをはせ、私たちが「宇宙で目を覚ました」という感動を教えてくれます。
私たちは何百万年もの長い眠りから目を覚ました。もちろん、宇宙船に乗ってやってきたのではなく、誕生することでこの世に到着したのですが、宇宙船で来ようが産道を通ってこようが、この惑星のすばらしさ、目もくらむような驚きになんら変わりはない。われわれがここにこうして存在しているのは、驚くほどの幸運であり、特権でもあるので、けっしてこの特権をムダにしてはならないのです。
『進化とは何か』p30
また、実演を通して、巷にあふれる超自然的な説明の誤りをわかりやすく伝えることで、私たちの日常性からも「目を覚ます」ことを促します。
「第2章 デザインされた物と『デザイノイド』」では、私たちや私たちの周りに存在する生物たちの複雑さに目を向け、どうしてこれほど複雑なものが存在しているのかについて説明し、自然選択による進化論の核心に入っていきます。
ここでもたくさんの例が登場し(この章だけで図版が68点も使われています!)、親しみやすさを担保しつつ、進化のしくみについての読者の理解を深めさせてくれます。
「第3章 『不可能な山』に登る」では、進化の「途中過程」について考えます。「完成された機能をもつ目が役立つのはわかるけど、進化途中の目が何の役に立つのだろう?」というような、一見進化論にとって不利に思える疑問について解説しつつ、さまざまな形の進化を紹介します。
「第4章 紫外線の庭」では、さまざまな方向に進化した生物の世界について考えることで人間中心の世界観からの脱却を促しつつ、それでも存在する生物たちの共通性に目を向けることで、生命の本質的な要素について考えます。
「第5章 『目的』の創造」では、私たちが世界を認識することを可能にする「脳」の本質的な能力である「モデリング」について、読者にもできる実験や、錯覚の紹介を通して説明します。そして、脳がどのように進化したのかについて考察し、科学の重要性を強調して講演を締めくくります。
世界や生命や宇宙について自分はどのように考えているか、ちょっと思い出してみてください。自分の信念は根拠があってのことか、それともたまたまある場所で生まれたからなのか。もし後者だとしたら、強くその内容を疑ってみてください。宇宙の真実が国によって異なるというのは、ありえないからです。
『進化とは何か』p207
訳者によるインタビューを収録した「第6章 真実を大事にする」では、ドーキンスの他の著書での見解についての深堀りや、ドーキンスの生い立ち、現代の教育における進化論、芸術の起源、科学と宗教など、コンパクトながらも幅広いトピックを掘り下げています。
本書を読んで
本書の著者(講演者)リチャード・ドーキンスは、世界的なベストセラーであり進化論における古典的名著『利己的な遺伝子』の著者でもあります。『利己的な遺伝子』は「すべての生き物は遺伝子の乗り物である」という進化論を説得力のある形で提示し、人々の世界観・人間観に革命を起こした書籍ですが、本書にもそのエッセンスが詰まっています。
講演を書籍化した本なので、語り掛けるような文章になっており、なおかつ200を超える数の図版が使用されているため、非常に読みやすいものになっています。それでいて、構成も論理的で内容も腹ごたえのあるものとなっているので、進化論の入門の入門として非常に価値のある本だと言えるでしょう。
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